FTAやEPAを活用する場合の社内体制の構築

FTAやEPAを活用する場合の社内体制の構築

 FTAやEPAを活用することで特恵関税率の恩恵を受けることができますが、同時にそれを維持するために、対象となっている産品がその原産資格を継続して持っているかを確認する必要があります。

変動する社内データの確認

関税番号変更基準を採用した場合

 原産性を証明するときに使用したデータが変更される可能性があるため、その確認を継続的に実施していく必要があります。例えば、関税番号変更基準(CTCルール)を用いている場合、製品の改良等で中で使用される部品や材料が変わった場合、HSコードの変更に影響を及ぼさないか?といったチェックが必要になります。

 製品の改良は開発部門で行われることが多く、彼らは製品の部品構成やコスト削減には詳しくとも、通関、特に「HSコード」に対する知識がない場合がほとんどです。その場合は、輸出や貿易を行なっている部署が部品構成の変更を共有し、それがHSコードの変更を伴うのかそうでないのかを判断していく必要があります。

 なお、会社によっては開発部でHSコードの判断まで実施しているケースもありますが、それにより開発部隊の負担が増しているのも事実のようです。単純に輸出入するだけであれば産品のHSコードを調べるだけでよく、それについては通関業者への確認したり、会社の輸出部門も長年の経験から判断できる場合が多いのですが、FTAやEPAを活用する場合(特に関税番号変更基準(CTCルール)を使う場合)は、部品や材料のHSコードを調べる必要が出てきますので、社内で原価構成(BOM)の情報を持っている開発や原価に協力を仰ぐ必要が出てきます。

 したがって、このように部署横断的な対応が必要になりますので、FTAやEPAで一度原産資格を証明したら終わりではなく、継続的に社内で部品情報を吸い上げる仕組みや、その変更をチェックする必要があります。

付加価値基準を採用した場合

 一方、付加価値基準(VAルール)を採用した場合も注意が必要です。この場合部品や材料の原価の変動を把握する必要があるからです。特に、海外から材料や部品を輸入している場合は、為替レートの動きによって輸入する都度原価が変わることとなります。したがって、VAルールを適用して原産資格を判定する際には、ある程度数値に余裕を持って申請しないと、ちょっとした為替の変動で原産資格を失ってしまいます。

 ただ、余裕をもって申請したとしても為替変動以外の要因、例えば仕入値が上がった、材料が高騰したといった事で原価が大きく変わる場合もあります。したがって、付加価値基準を採用した場合は、常に社内の調達部門や開発部門と連携をとって、原価の変動を把握し続ける必要があります。

変動する社外データの確認

 確認は、社内だけにとどまりません。FTAやEPAでは特恵関税率が毎年下がるケースもありますので、最新の関税率を常にチェックする必要があります。また、内容も改定される場合もあるので注意が必要です。特にこれについては、FTAやEPAで決められたルールよりも厳しいルールが国内法で定められているケースもありますので注意が必要です。以前ご説明した通り、日・EU間のEPAでは、輸入者による書類保義務は3年と定められていますが、日本へ輸入する場合、国内法令上輸入者には5年間の書類保管が求められます。このように、国際間の取り決めが国内法に落とし込まれた際に、内容がより厳しくなって決定される場合がありますので注意が必要です。

 このような変動する外の情報については、社内で責任者を決めて対応する必要があります。特に関税率を数年にわたって逓減するように規定している場合がありますので、従前の税率のままになっていないか忘れずにチェックしてください。一方、国内法の確認は専門家に任せてしまうといった事も一つかとは思います。任せない場合は商工会議所に確認するなど、国内法の認識に間違いがないか確認ください。

FTAを継続して活用するには社内体制の構築が不可欠

 このようにFTAを継続して活用するには、部署横断的な社内体制を構築する事が不可欠です。特に欧米では関税の専門部署があるほどです。といいますのは、FTAやEPAを活用して関税を削減させる場合、もちろん今の物流で削減できる場合もありますが、より恩恵を得るためにサプライチェーンの変更までを検討するケースが欧米ではよくあります。たとえば、シンガポールをアジアの物流の拠点にして、関税率を下げるサプライチェーンを構築するといった事です。こういったことは今までの日本ではあまり実施されてきませんでしたが、今後FTAやEPAを積極的に活用する場合、サプライチェーンの変更まで含めた大きな物流費削減という観点から関税の削減を考慮することは会社にとっても重要な戦略となります。

 このようにサプライチェーンまで含めた物流費削減となると、全社的プロジェクトとして取り組む必要や、サプライチェーン変更後であっても新しく締結されたFTAが活用できないかといった形で定期的に戦略をアップデートする機会が必要です。

 EPAやFTAを活用してサプライチェーンを再構築することで関税を含めた物流費全体を削減できる企業は、お客様に対してより安い価格で商品を提供できる事になるため、価格競争力が向上します。海外の多くの企業ではすでに取り組まれている内容ですので、ぜひ日本の企業様にも積極的に取り組んでもらいたいと思います。

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