日本・ASEAN FTAを活用する!

日本・ASEAN FTAを活用する!

 今まで、長きに渡って、関税削減のためにFTAやEPAが活用できること、そしてそのために必要なHSコードや、原産地規則について説明してまいりました。これからは、実践編としていくつかの具体的なFTAの特徴と、それを活用することで実現できることについて記載していきます。

日本・ASEAN FTAの特徴

 今回は、日本の企業にとって活用度が高い日・ASEAN FTAについてお話したいと思います。なお、ASEAN(東南アジア諸国連合)とは、東南アジア地域の国々が加盟する地域協力機構のことで、現在ブルネイ,カンボジア,インドネシア,ラオス,マレーシア,ミャンマー,フィリピン,シンガポール,タイ,ベトナムの10カ国が加盟国になっています。

 この日・ASEAN FTAは、アジアをめぐる広域FTAであり、上記の通り締約国が複数にまたがることで、市場規模が大きく、経済発展レベルの異なる多様な国が存在するだけでなく、特徴的な累積ルール(累積原産地規則)の適用によって、FTA域内で複数国と取引を行うビジネスで特恵税率の適用を受けることができます。

 特に、近年「世界の工場」と言われた中国のカントリーリスクが言われる中、ベトナムといった東南アジアに生産の拠点を移す企業が増えている中、最近では米中間で関税を引き上げるとった事態にもなっております。そういった中で比較的に安定的に成長している東南アジアは日本の貿易の相手として今までに増して重要度が高まっています。

 また、通常の二国間FTAだと、原産地証明は一つの相手国からのみとなりますが、日・ASEAN FTAでは、先ほどの累積ルールを活用することで、通常のASEAN域内であれば、生産が複数国にまたがっていたとしても、その商品について特恵税率の恩恵を受けることが可能となります。

日本・ASEAN FTAの原産地規則

 FTAでもっとも重要な原産地規則について、日・ASEAN FTAの原産地規則は、原産地認定基準において①一般規則を採用し、一般規則が適用されない産品のみをリストアップして品目別規則を適用するルールを採用していることと、②「累積」を定めていることです。

一般規則について

 一般規則では、原則としてHS4桁レベルの関税番号変更基準(鉄鋼製品はHS2桁の変更)か、付加価値基準(40%以上)のいずれかを選択します。ただし、自動車・自動車部品は選択制ではなく、付加価値基準の「原産資格割合≧40%」の適用が指定されているので注意してください。なお、繊維製品については、品目別規則による加工工程基準が適用され、2工程ルールを採用しています。

累積について

 「累積」については、日・ASEAN FTAを構成する11カ国の域内で調達・加工される原材料・部品等は原産材料として認められ、「原産資格割合≧40%」の算定に加えることができます。つまり、構成する複数国にまたがって活用することができるので、日本が東南アジアで事業展開すればするほど、そのメリットを享受できる機会が増すことになります。なお、協定内では、「締約国の原産材料であって、他の締約国において産品(製品等)を生産するためにしようされたものについては、当該産品を完成させるための作業または加工に投入された他の締約国の原産材料とみなす」と定めています。つまり、締約国内であれば、自国で作ったと同じように原産材料として見なされるということです。

日本・ASEAN FTA活用モデル

 日・ASEAN FTAを活用した、「広域輸出ビジネス」モデルについて、自動車のサプライチェーンからみた取引事例を挙げてみます。

 日本からノックダウン・キットを日・ASEAN FTAの累積ルールを適用して、無税でタイに輸出し、AFTA域内のインドネシアから調達する変速機を加えてタイで完成車に製造した上で、AFTA域内で広域販売するモデルです(「AFTA」とは、1994年の第4回ASEAN首脳会議で合意された域内自由貿易圏構想。農産品等を除く主要貿易品目の域内関税を0~5パーセントに引き下げることなどを内容とする、また「ノックダウン」とは部品を現地で組立てて完成品とする生産方式)。

 今までですと、タイで製造した完成車のインドネシアからの部品はAFTA域内ということで特恵税率で仕入れることができたものの、日本からきた部品(この場合はノックダウン・キット)は、非原産材料になるために、タイで製造した完成車をASEANの他の国に輸出する場合は、輸入側の国(例えばベトナム)で特恵税率の恩恵を受けることができませんでした。しかし、日・ASEAN EPAをセットで活用すれば、日本からの部品を原産材料として加えることが可能となり、タイで製造した完成車をASEANの他の国が輸入する際の関税率が無税や低関税になることで、その国での拡販が可能になります。

 もし、日・ASEAN EPAを使わずに、ベトナムで輸入する際に関税を下げる場合、日本とベトナムのFTAを使うことができます。しかし、この場合日本やベトナムの原材料や部品を使用しないと、原産性が取得できません。また、日本で最初から最後まで製造するとコスト高です。そのため製造コストを下げるべく、ベトナムにもタイのように日本からノックダウン・キットを送り、ベトナムでも製造しなければいけないことになります。一方、日・ASEAN EPAを使えば、ASEAN内の材料や部品を無税(or低関税)でタイへ調達させ、タイに製造場所を集中して、量産効果でより安く生産することも可能になります。

 このように、日・ASEAN FTAでは、累積ルールによって、ASEAN10カ国に原材料・部品等の調達先を広げ、かつAFTA域内での集中生産方式を可能にするため、コスト競争力の強い製品が生産でき、価格競争力に打ち勝ち、事業拡大を図ることが可能になります。

 もう少し一般化すれば、日・ASEAN FTAの累積の適用によって、原則として日本からASEAN域内国に輸出される部品・中間製品等はASEAN生産国において原産材料となり、一方で、ASEANから日本に輸出される原材料・部品等も同様に日本において原産材料として計算されます。したがって、日本とASEANで行き来する複数の原材料や部品が、日本またはASEANの国々において製品化されて、その域内に輸出される場合、多くの場合原産資格割合≧40%となり、特恵税率を享受できます。日本とASEANは人口7億人の巨大市場であり、今後ますます拡大することは間違いありません(日本は人口が確実に減少するので、、海外に商機を見出す道しかありません)。もし東南アジアをお取引があるにもかかわらず、日・ASEAN FTA活用されていない場合は、それだけで国際競争力を失ってしまっていますので、ぜひ活用できないか(かなりの確率で活用できるはずです)検討ください。

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